インデックス投資術の入門書として有名な「全面改訂 ほったらかし投資術(山崎 元・水瀬ケンイチ共著)」を改めて読みました。
2015年6月と5年前の発行であり、取り上げられている制度やファンドの情報などがやや古いですが、中身はよく出来ています。
とくにインデックス投資の解説だけでなく、投資家の実践が程よいバランスで入っているところが良い点だと思います。
今回は同書の紹介や、読んでの感想・自分の実践などを書いていきます。
全面改訂 ほったらかし投資術を読む
内容紹介
- インデックス投資を開始するまでの流れ
- 実践編
- インデックス投資説明編
- 商品説明
- ETF運用センターの方へのインタビュー
インデックス投資を開始するまでの流れ
水瀬ケンイチ氏が個別株投資からインデックス投資家になるまでの流れが書かれています。
個別株投資だと株式のことが気になって仕方がなかったが、インデックス投資家になって相場に振り回されることがなくなり生活にゆとりが持てるようになったということです。
実践編
- 家計の状態把握:どの程度の資金を投資に回せるのか
- 資産配分(アセットアロケーション)を決める
- アセットクラスごとにベストな商品を選ぶ:コストを考える
- 商品を売買する金融機関を決める
- 確定拠出年金(DC; iDeCo含む)、NISAを利用する
- モニタリングとメンテナンス:バランスの調整
流れに沿って詳しく解説がされているので、迷子にならず手続きを進めていけるようになっています。
インデックス投資説明編
この章ではインデックス投資をするときの長所・短所や考え方について触れられています
- インデックス投資の長所/短所
- 運用商品の選び方(コストや純資産について)
- 買った後のメンテナンス
- 売るときの方法:定率取り崩し
他の投資手法と比べて、インデックス投資は分かりやすく手数料が低いので負けにくい投資法であるという説明がされます。
また次章で具体的な金融商品が出てきますが、どのようにしてその金融商品を選定したかが書かれています。
よくインデックス投資で迷いやすい"資産をいつ売るか問題(出口問題)"についても触れられています→お金が必要になったときに必要な分だけ売る
最後の売買戦略についてとくに良い文章だと思ったので、そのまま引用させていただきます。
バイ&ホールド戦略のインデックス投資は(中略)売買することによって資産を増やそうという発想ではなく、将来、値上がりすると期待できる(期待リターンがプラス)ところになるべく長い時間資産を置いておこうという発想に基づく投資法です。
(全面改訂 ほったらかし投資術 Kindle版 No.1753/2655)
商品説明
- インデックスファンド
- 国内ETF
- 海外ETF
この章ではインデックスファンド・国内ETF・海外ETFの個別銘柄について書かれています。
各銘柄につき、概要やコスト、水瀬ケンイチ氏の一言コメントなどが記載されています。
感想
良い点:構成が読みやすく、取っ付きやすい
本書はまずインデックス投資開始の具体的手順があり、その後解説という構成になっています。
手順
手順は1から10までがまとまって記載されており視認性が良いです。
ネット上の記事だとどうしても細かい部分の比較などが増えてしまったり、各論中心で総論的に学ぶのが難しいです。インデックス投資の全体像を学べるという点ではやはり書籍が有利ですね。
説明
説明の部分では、結論だけでなくてどうしてその結論になるのかという考え方の部分が書かれています。
後でも述べますが"ベストなインデックスファンド"というのは時代によって変わりますし、実際本書発行時からもだいぶ変わっています。
そんな中でインデックスファンドを選ぶ考え方を知ることで、自分でどれが良いのか取捨選択できる力を身につけることは大切だと思います。
悪い点:株式の保有比率は意見が分かれる
インデックス投資において、よく議論となるのが株式の保有割合(国内:先進国:新興国)についてです。
本書では国内株式:外国株式を4:6〜6:4の間になることを目指しており、5:5で購入していていきだいたいこの範囲に入れば良いと記載されています。
ちなみに改定前の本書では水瀬ケンイチ氏は国内1:先進国8:新興国1という全世界時価総額ベースの、山崎元氏は国内5:海外5というGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオの比率を推奨されていたと思います。
※今手元にないので今後確認します
改訂版では(おそらくわかりやすさを重視して)山崎元氏の比率が採用されたものと推測します。
ただインデックス投資を実践されている方の情報を見ていると本書の比率は国内が高すぎる印象があります。
そもそも年金という性質上かなりコンサバティブな運営が求められるGPIFと、個人で同じ比率を目指すというのは少々無理があるように私には思えました。
注意:制度やコストが5年間でだいぶ変わっている
発行から5年間が経っており、いくつか違ってきている点があります。
- NISA(少額投資非課税制度)が1つしかなかった
- 確定拠出年金(DC)の加入条件が違った
- 商品コストがやすくなりベスト商品が変わった
NISA
つみたてNISAは2018年開始のため、本書で触れられているのはNISAのみです。
- 非課税期間が20年と長い点(NISAは5年間)
- 金融商品がインデックスファンド中心な点
上記から現在始めるならつみたてNISAの方が長期投資を前提としたインデックス投資には向いているでしょう。つみたてNISAについては下記の記事でも書いています
-
つみたてNISAで資産形成 楽天証券・楽天カード併用
続きを見る
確定拠出年金(DC)
最近はDCというとiDeCo(個人型DC)が話題になることが多いですが、本書では企業型DCや企業年金の話が先行しています。
これは以前は公務員等共済加入者・国民年金第3号被保険者・企業型DC/企業年金の加入者はiDeCoに入れなかったためです。
(2017年1月の法改正後は上記も加入可能になりました)
企業型DCがある場合、それを検討することは今でも重要ですが実践的にはiDeCoを主体に戦略を考えていくのが良いでしょう。
商品コスト
インデックスファンドにおける各商品のコスト(とくに信託報酬)はどんどん下がっているので、本書発行時からコスト面で考えたベストファンドは変わっています。
これについては本書の著者である水瀬ケンイチ氏のブログでも半年に1回記事が書かれていますし、ザイ・オンラインなどの記事も参考になります。
ちなみにインデックスファンドの信託報酬(年率)について、本書発行時と2020年6月時点で比較してみると…
対象株式 | 信託報酬(2015年 本書より引用) | 信託報酬(2020年) |
国内 | 0.29% (ニッセイTOPIXインデックスファンド) |
0.14% (eMAXIS Slim 国内株式) |
先進国 | 0.39% (ニッセイ外国株式インデックスファンド) |
0.0924% (eMAXIS Slim先進国株式インデックス) |
新興国 | 0.60% (eMAXIS 新興国株式インデックス) |
0.195% (SBI・新興国株式インデックス・ファンド) |
とくに海外株式の信託報酬手数料はこの5年間で劇的に下がっていますね。コストの低下で、インデックスファンドと海外ETFの差もだいぶ少なくなっていると思います。
またここ5年で新規ファンドもかなり増えており、いま大人気の楽天・バンガード・ファンド(楽天VTI/楽天VT)の登場も2017年9月のことです。本書のおすすめファンドをそのまま選ぶと、2020年現在のベストにはなりません。
ただ先にも書きましたが、本書は"魚を与えるのではなく魚のとり方を教える本"です。
どのような目線で金融商品を選ぶかを知っておけば、インターネット検索と組み合わせて現時点でも適切なファンドを選ぶことは十分可能でしょう。
自分への影響
実践編
改定前の本書は、自分がインデックス投資を知るようになったきっかけの一冊でした。
実際に2018年8月からインデックス投資を始め、インデックスファンドを毎月購入しています。それからの変遷は以下のとおりです
今年の4月から国民年金第1号被保険者になるに従いiDeCoの上限が2.3万円→6.8万円にUPし、また楽天証券+楽天クレジットカード決済(1%のポイント還元あり)を利用した積立投資を追加で始めました。
そして今年の6月からつみたてNISAと楽天クレジットカード積立の商品を見直し、それぞれ先進国株式・全世界株式に変更しました。
変更の理由は、過去成績を見ると期待リターンの高い先進国株式を非課税枠のあるNISA枠で購入するほうが合理的と思ったためです。
比率に関しても国内株式よりは全世界株式を購入するほうが、自分の目的バランスである国内1〜2:海外8に近づくと考えたためです。
つみたてNISAやiDeCoの運用成績は当ブログでも書いています。
インデックスファンドかETFか
インデックス投資の対象商品としてはインデックスファンドとETF(上場投資信託)というものがあります。インデックス投資をしていくにあたり、インデックスファンドを選ぶかETFを選ぶかの選択肢があります。
インデックスファンド
もともとインデックスファンドでは配当金を再投資に回すようなコースを選べます。
この場合購入し続けるだけで、配当金が自動で再投資に回るので複利効果が得られます。
ETF
ETFは株式と同様に配当金が出るので、配当金を使って再度ETFを購入し直す必要があります。
手数料を厳密に勘案すると、ETFの方がインデックスファンドよりも良い場合があります(といってもその差はかなり縮まっています)。
海外ETFの場合は配当金に税金がかかる(国内の税金と合わせて二重課税となる)ため、外国税額控除を受ける必要があります
※2020年1月より二重課税調整制度が始まったので商品によってはこの処理が不要になりました
どっちを選ぶ?
もともと簡単に時間を大きくかけることなくできるのがインデックス投資の良い点です。
ETFを選んでひと手間増えてしまうのは、現在の両者の手数料ではメリットが薄いように思います。
インデックス投資との付き合い方
インデックス投資は手間暇が少なく、そこそこの(市場平均の)リターンが得られる投資手法です。
いちばん大事な資産である"自分の時間"をあまりかけずに済むことや論理が明快なことがメリットです。
ただ、毎月積み立て投資を行っていくスタイルが基本となるため積立時点でのキャッシュフローは悪化します。
資産を増やすには向いているが、収入を増やすための投資手法ではないということですね。
自分は現在月21.5万円ほどをインデックス投資に投資していますが、それ以上の余剰資金ではキャッシュフローが得られる投資手法を現在模索しています。
まとめ
本書はインデックス投資を通じた"負けにくい投資"を実際に行っていくにあたり、とても参考になる本です
発行から5年が経ち制度やインデックスファンドなどが変わってきていることには注意が必要ですが、基本的な考え方を理解すれば現在でも問題なく応用可能な内容です。